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夫婦善哉

 避難列車の中では碌々物も言わなかった。やっと梅田の駅に着くと、真直ぐ上塩町の種吉の家へ行った。途々、電信柱に関東大震災の号外が生々しく貼られていた。
 西日の当るところで天婦羅を揚げていた種吉は二人の姿を見ると、吃驚して暫くは口も利けなんだ。日に焼けたその顔に、汗とはっきり区別のつく涙が落ちた。立ち話でだんだんに訊けば、蝶子の失踪は直ぐに抱主から知らせがあり、どこにどうしていることやら、悪い男にそそのかされて売り飛ばされたのと違うやろか、生きとってくれてるんやろかと心配で夜も眠れなんだという。悪い男云々を聴き咎めて蝶子は、何はともあれ、扇子をパチパチさせて突っ立っている柳吉を「この人私の何や」と紹介した。「へい、おこしやす」種吉はそれ以上挨拶が続かず、そわそわして碌々顔もよう見なかった。
 お辰は娘の顔を見た途端に、浴衣の袖を顔にあてた。泣き止んで、はじめて両手をついて、「このたびは娘がいろいろと……」柳吉に挨拶し、「弟の信一は尋常四年で学校へ上っとりますが……今日は、未だ退けて来とりまへんので」などと言うた。挨拶の仕様がなかったので、柳吉は天候のことなど吃り勝ちに言うた。種吉は氷水を註文に行った。
 銀蝿の飛びまわる四畳の部屋は風も通らず、ジーンと音がするように蒸し暑かった。種吉が氷いちごを提箱に入れて持ち帰り、皆は黙々とそれをすすった。やがて、東京へ行って来た旨蝶子が言うと、種吉ほ「そら大変や、東京は大地震や」吃驚してしまったので、それで話の糸口はついた。避難列車で命からがら逃げて来たと聞いて、両親は、えらい苦労したなとしきりに同情した。それで、若い二人、とりわけ柳吉はほっとした。「何とお詫びして良えやら」すらすら彼は言葉が出て、種吉とお蝶は頗る恐縮した。
 母親の浴衣を借りて着替えると、蝶子の肚はきまった。一旦逐電したからにはおめおめ抱主のところへ帰れまい、同じく家へ足踏み出来ぬ柳吉と一緒に苦労する、「もう芸者を止めまっさ」との言葉に、種吉は「お前の好きなようにしたらええがな」子に甘いところを見せた。蝶子の前借は三百円足らずで、種吉はもはや月賦で払う肚を決めていた。「私が親爺に無心して払いまっさ」と柳吉も黙って居るわけに行かなかったが、種吉は「そんなことして貰たら困りまんがな」と手を振った。「あんさんのお父つぁんに都合が悪うて、私は顔合わされしまへんがな」柳吉は別に異を樹てなかった。お辰は柳吉の方を向いて、蝶子は麻疹厄の他には風邪一つひかしたことはない、また身体のどこ探してもかすり傷一つない筈、それまでに育てる苦労は…‥言い出して泪の一つも出る始末に、柳吉は耳の痛い気がした。

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