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龍潭考

 龍潭通りを歩いていて、のどが渇いてたまたま入った数席しかないカフェで、入口から奥まった席に座っていると、お店の女性に、窓側の席に移動することを勧められた。その女性によれば、龍潭を挟み首里城が見られるこの場所を歩いていて景色が気に入り、今年の3月に店をオープンしたのだという。せっかくなら、私に首里城の見える窓側の席に座って欲しいという。ロマンチックなカフェのオープンの経緯を聞いている時に、店の前に車が止まり、一人旅と思われる女性が、車を降りて道の向かいに走っていき記念写真を撮り始めたのを見て少し驚いた。有名な場所なのか、それともよそ見運転をしていたのか。そんなロケーションにこのお店はある。
 まだ若い女性オーナーのお話をうかがって、首里の日限萬里子さん候補の一人に出会ったような気がした。店に並ぶ陶器は、お父様の作品で、ギャラリーとカフェは半々の割合で営業しているという。
 その後も、休みの日には、龍潭に近所の人が集まってリラックスした時をすごしていること、彼女自身も龍潭の趣きが気に入っていること、龍潭に池をつけて龍潭池と呼ぶことは、意味が二重になり首里に住む人たちは好まないこと、池の周りには遊歩道があることを、親切に教えてくれた。
 当初、立ち寄るつもりはなかったが、せっかく教えてもらったので、彼女の薦める龍潭の池端の遊歩道を歩いてみることにした。遊歩道を歩いていると前からぶらぶらとアジア系の若い二人の観光客が歩いてきた。池を散策しているのは、私と彼ら二人の三人だけ。二人が、交代で一人づつ記念写真を撮りあっていたので、私から声を掛けて、彼らのカメラのシャッターを押して彼ら二人の記念写真を撮影した。丁寧に日本語で礼を言ってくれた二人と別れ、龍潭に隣接する円鑑池を見て、私はどちらかというと、龍潭より隣接する円鑑池の造形美に心を揺さぶられたが、観光客で込み合う世界遺産の首里城のすぐ隣にあるにもかかわらず、そこには誰もいなかった。
 その時、ふとガイドブックも持たない彼らがなぜ龍潭を散策していたのか、その意味が分り、愕然とした。彼らは、私の持っていない漢字的センス、素養、教養といったものを持っており、「龍潭」の文字を公園の地図で見たとき、「龍のいる池」という意味を理解した上、昔の琉球王国の庭の造形者と池の命名者が持っていただろう美的センスとして、「名前負けをするような池を造るはずがない」、逆に「池に名前負けするネーミングをするはずがない。」ということを一瞬のうちに理解し、または無意識のうちに理解し、この池を見にきていたのだ。
 漢字の持つ意味、名前の持つ意味、池の命名者の美意識を理解できず、ネーミングなどには意味が無く、聞こえのいいものや、自分の好みで付けるもので、商標登録上、早い者勝ちの記号に過ぎないとの感覚が身についている自分と、彼ら二人との差に愕然とした。
 龍潭でザリガニ取りをする親子を見ながら、龍潭通りに出ると、先ほどの二人に、沖縄県立博物館(今秋おもろまちの新美術館に移転するため休館中)の前で追いついた。彼らに、どこから来たのか話しかけてみると「韓国」からということだった。
 そんなことがあった夜、宿泊先の首里にあるホテルのエレベーターに乗った。
 先に乗っていた欧米からの旅行者が、ボタンを押してエレベーターの戸を開けてくれていたが、無意識に私は、ドアを手で押さえて、後から乗ってくる人を待った。なぜそんなことをしたのか、後から乗ってきた人が降り、彼とエレベーターで二人きりになった時に気がついた。私は、彼が欧米からの旅行者で、「開」と漢字で書かれたボタンの意味が理解できないと感じて扉を押さえていたのだ。彼に「漢字が読めるなんてすごいですね。」といった内容を話しかけてみた。日本滞在歴が長いであろう彼からは、当然、得意の日本語で返事があると予想していたのだが、彼が全く日本語を話せないということに気がついて愕然とした。「なぜボタンの漢字が分るのですか?」と聞いてみると、彼は、「この記号(彼にとって文字というより、まさしく記号だろう)はオープンという意味だと知っている。」とだけ笑顔で短く答えた。すぐに私の宿泊する部屋のある階に到着し、私は二の句がつげず、ただ笑顔の彼と手を振りあって別れた。
 私は、漢字の何を、今まで学んできたのだろう。私を含めこのホテルのエレベーターに乗っていた、のべ何千いや何万という人は、何という勘違いをしていたのだろう。「エアラインのクルーも宿泊する国際派のホテル」との紹介文のアウトラインを考えていた私は滞在中、何を見ていたのだろうか。

 高い知性によって琉球王国の本質を理解されている前途有望な若いお二人と、首里のホテルのエレベーターでお会いした暗号解読のエキスパートである紳士に、感謝の意を表し、この拙文をお贈りいたします。
 また、遠いフランスの地から日本にお越しいただき、我が国の観光地の格付けという難事業に取り組まれているミシュランガイドの編集にたずさわる皆様にも、私は深い尊敬の念を禁じえません。

ようこそJAPAN

龍潭
日限萬里子
ひぎり まりこ(故人)
1969年、彼氏との世界一周旅行に出かける3日前の夜、彼女にとって地元である大阪市三角公園のベンチで彼氏と缶コーヒーを飲みながら閃いた「夜遅くまでコーヒーを飲める店が作りたい!」というアイデア。旅行を中止して、二人で公園の前の貸事務所を借りてオープンさせた「LOOP」という名のカフェが、倉庫や貸事務所ばかりの殺風景な街を現在の大阪の若者の集まる街「アメリカ村」に変えたという逸話を持つ人物。
生前、彼女の口ぐせの一つに「街は人がつくる」という言葉があったという。

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