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旅の本 チャーリーとの旅 ジョン・スタインベック著

 旅行記、紀行としては、世界的に屈指の知名度を誇るスタインベックによるアメリカ紀行「チャーリーとの旅」の新訳が昨年出版された。内容ももちろん、出版([Travels with Charley in Searching of America] New York:Viking Press)の年(1962年)にスタインベックがノーベル文学賞を受賞したことともに、旅に同行したチャーリー(本名 シャルル・ル・シアン)がフランス生まれのプードル犬であったことも愛犬家に限らず読者に愛された大きな理由ではなかろうか。

 私がとても若く、ここではないどこかに行きたいという衝動を抱えていた頃、大人たちは「そういう胸の疼きは大人になれば消えるもんだ」と請け合ってくれた。何年もたって大人になったら「中年になれば治る」と言われた。中年になったら「もっと歳を重ねれば熱も冷める」となだめられた。しかし、私も今や五十八歳である。…なのにちっとも熱は冷めない。

という書き出しからはじまるこの旅行記は「自分が自分の国を知らないことに気付いた」ことが旅の動機であり、25年間アメリカの大地に触れず、本と新聞だけから時代の移り変わりを知り、アメリカの作家としてアメリカについて記憶で書いてきたと最初に告白する。アメリカの実像を再発見するためには、「怒りの葡萄」を書いた高名な作家としての知名度によって生じる様々なことを避ける必要があり、ホテルのレジスターブックに署名することさえ避けるため、GMCのピックアップトラックの荷台に調理、宿泊可能な小さなキャビンを載せたキャンピングカー「ロシナンテ号」(ドンキホーテの馬の名前)で一人のアメリカ人としてアメリカを再発見するための 旅に出発する。
 通常、旅行記や紀行といったものは、導入部を映画に例えれば、ミニシアター系の映画のようなオープニング(著者の日常生活の不満、愚痴や独り言、輝かしい過去の追憶と逃避などの長々としたナレーション)といったパターンが多いが、この「チャーリーとの旅」は、まるで007シリーズのオープニングのようなエピソード(いきなり嵐の入り江でのアクションシーン)で幕を上げる。
 先に、スタインベックのノーベル賞受賞の年の出版がこの本の知名度向上に大きな役割を果たしたとちょっと皮肉を仄めかしたが、この嵐のなかのエピソードに加え、老いを意識した作家によって語られる「わずかな余命と引き換えに猛々しさを失いたいとは思わない。男と結婚した妻に、赤ん坊として面倒を見てもらうわけにはいかないのだ。」との言葉、そして旅行記の終盤、作家という立場を超え、誰もが見たくもなく関わりを持ちたくないであろうものを見に行く彼の姿に“人一倍、生への活力が満ち溢れた人間だからこそ書く”というアメリカの作家のプロトタイプ(原型)が見てとれる。これこそが本書の魅力の根源である。
 この竹内真訳版が出るまで、作品の知名度に反し1998年に出版された『スタインベック全集16』以来、日本の新刊本を扱う本屋で手に入る「チャーリーとの旅」が皆無の状況だった。その状況を打開した意味で本書の意義は大きいが、1711年3月1日木曜日付けのジョゼフ・アディスンの文章の引用とスタインベックの自己紹介については、全集の訳がよりウィットに富んでいると感じるがどうだろうか。以下に引用してみる。

「余の観察では、読者は、著者が色が黒いか白いか、温厚な気質か癇癪持ちか、結婚しているか独身か、その他、著者を正しく理解できるような性質など細ごまとしたことがらを知ってから、喜んで本を熟読するものだ。これは読者としては当然のことだが、この好奇心を満足させるために、余は以後の著述の序文として、この論説と次の論説を計画したのであり、そのなかで、この本に寄稿した数人の人について、説明したい。この本の編集、整理、校正という主要な厄介ごとが余の役割分担なので、まず仕事初めに余の経歴について語るのが至当であろう」
 1961年1月19日、日曜日。全くそのとおりだ。ジョウゼフ・アディスン。余は貴殿の言葉を聞いて、理にかなっているのでこれに従うことにする。貴殿のおっしゃる好奇心は少しも減じていないからだ。多くの読者は、余の考えよりも、余の服装に関心をもち、余が何をするかよりも、いかにそうするかをしきりに知りたがる。余の作品に関して、一部の読者は、書いてあることよりも、その影響のほうに、より大きな関心を示している。大家の提言は聖書と違(たが)わぬ命令であるから、余はやはりわき道にそれた、その命令に従う。(「スタインベック全集16 チャーリーとの旅 アメリカとアメリカ人」矢野重治 上優二訳 大阪教育図書 1998年 40頁)

 この一節とアメリカ本国での本書刊行(1962年7月)の3ヵ月後のノーベル文学賞受賞発表の関係はちょっと面白い。世間一般には、この一節に続く数行が急激(数千倍?)に膨張し、本書全体(数百ページ)がノーベル賞作家スタインベックの(受賞時点の)自己紹介となったことは想像するに易く、その膨張ぶりはイメージとして面白い。
 蛇足かもしれないが、前掲全集には、チャーリーやロシナンテ号の写真(そして、愛犬家にはチャーリーの旅の後の消息)も掲載されている。本書を読んだ後に興味のある人はこちらにも目を通してみることをおすすめする。

旅の本 バックナンバー

チャーリーとの旅 表紙

bookデータ
チャーリーとの旅
ジョン・スタインベック 著
竹内真 訳
ポプラ社
定価 1800円+税
ISBN978-4-591-09726-7

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